原発停止で依存度が高まった火力発電の燃料コストがかさみ、電気料金値上げの動きが電力各社に広がっている。冬場を控えて気になるのが暖房費。空調専門家は「エアコンを利用している人は、エネルギー効率の良さを上手に使うのが省エネと節約につながる」と指摘。エアコン暖房術を紹介する。 (林勝)
人は基本的に暑さよりも寒さに弱い。その一端を示すのが、家庭で一年間にどんな目的にエネルギーを使ったかを示すデータだ。電気だけでなく灯油やガスなども含み、すべて熱量に換算し、総消費量を算出している。その内訳を見ると、冷房1.8%に対し、暖房は25.1%と十倍を超す。
「暖房に対する誤解があり、エネルギーを無駄遣いしている家庭は多い」。公的機関や企業と空調に関する研究をしている、空調専門家の北原博幸さん(52)=茨城県つくばみらい市=は言う。暖房の省エネの余地は大きいとみている。
エアコンは、使用する電力エネルギーよりも多くの熱エネルギーを効率良く室内に取り込める。ただ、注意点がいくつかある。設定温度を変えるだけで、夏場の冷房と同じように水平方向に送風すると、暖かな空気を天井にためるだけ=図<1>。送風を下向きにすると、暖かな空気が届く範囲はいいが、結局天井に上がっていき、それ以外の空間が寒いままに=同<2>。このため、ついつい設定温度を高めにしてしまう。天井付近の空間を無駄に暖め過ぎるだけでなく、天井から熱が逃げやすくなる。
対策として北原さんは「エアコンの設置場所と反対側にサーキュレーター(空気循環器)を置き、足元の冷気を上に送る。すると、部屋の空気がゆっくり循環し、温度差がなくなって暖房の効率が良くなる=同<3>」と提案。設定温度を20度に下げることができ、循環器の電力や購入費用を考えても、全体で省エネになるという。循環器は2000円前後からある。
ここで大切なのは、エアコンの送風や循環器の風に体を直接当てないこと。空気の動きが少ない室温20度の空間は快適だが、風の中は別。「25度の空気でも、体に当たれば寒さを感じてしまう」
(写真)冷気を天井に送るサーキュレーター。置く場所を変え、効果を確かめる=名古屋市内で
ストーブや電気ヒーターなど、体を直接加熱する機能が高い機器のように、エアコンの風を体に当て続けて暖をとる使い方は、“増エネ”のもとだ。文字通り「房」(空間)を「暖」める発想で、適温の空気を人のいる場所に緩やかに導くのが、エアコン暖房の極意。各家庭では部屋の大きさや家具の配置、人のいる場所など条件は多様なので、循環器を置く場所や風向き、風量を自分で確かめる必要がある。
石油ファンヒーターとのコスト比較
エアコンは、電気でヒートポンプを動かし、外気の熱を奪って室内に運ぶ。電気を直接熱に変えるより、効率良く室内を暖められる。現在の平均的な電気代、燃料代を基に、石油ファンヒーターの暖房コストと比較してみた。
A社の12畳用エアコンの場合、消費電力885ワットで暖房標準能力(外気温7度、室温20度のときの室内に熱を運ぶ能力)が4500ワット。効率は約5倍だ。少なめに見積もり効率を4倍とすると、1キロワット時(発熱量860キロカロリー)で3440キロカロリーの熱を室内に運べる計算だ。1キロワット時の電気料金を22円とすると、1000キロカロリーの熱量を得るコストは約6.4円。
一方、石油ファンヒーターは機械性能を考慮せず、効率を100%と仮定。灯油1リットル当たりの発熱量が8700キロカロリーなので、10月末の店頭価格全国平均の1リットル91円とすると1000キロカロリーのコストは約10.5円となる。
ただし、エアコン暖房の威力が十分発揮できるのは外気温が7度まで。これより下がると徐々に効率が落ちる。特に外気温が2度程度になると、室外機の熱交換器に霜が付きやすくなり、大幅な効率低下の原因となる。寒冷地では寒冷地用のエアコンと他の暖房器具と組み合わせて使うのが現実的だ。