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フランスの再生可能エネルギーはいま(5) ――酪農家ファミリーがメタンガス生産に乗り出した理由

復興ニッポン 11月12日(月)12時23分配信

フランスの再生可能エネルギーはいま(5) ――酪農家ファミリーがメタンガス生産に乗り出した理由
GAEC AJP Orvain社のメタンガス生産施設の全体像

フランスで初めて、酪農家が小規模なメタンガスの生産に取り組んだ。GAEC AJP Orvain社。オルヴァン(Orvain)とは養豚家4代目の青年の名前だ。農地はノルマンディー地方の南端、ブルターニュ地方との境にあるモンサンミッシェルの近くにある。

 2012年9月半ばに開かれたブルターニュ農業祭の会場で、フランスにおける第一回目となるバイオガス会議が開催された。会議では、大・中・小と規模が異なる3社の経営者による講演があった。最初に登壇したオルヴァン青年は、「父母とパートタイマー2名の5人でガス会社(GAEC AJP Orvain)を経営しています」と語りはじめた。

 一家は1997年から豚と牛、300頭以上を育ててきた。バイオガス生産の計画が具体的になったのが2004年。所有地から130ヘクタールを用意した。ブルターニュ地方は養豚業が盛んだが、糞尿処理の合理的な解決方法が課題になっていた。

 バイオガスといってもメタンガス化を中心に計画を立て、ガス、電力、熱源を生産し、発生する熱の一部を豚舎の暖房や、糞など燃料となる素材の乾燥のために使い、養豚から出る廃棄物の量を減らし、余った電力を電力会社に販売することにし、そのための施設を建設した。

■発電量を150kWhに抑えたのには理由がある

 もっとも、たった一軒の農家が行うには、難しい事業だ。課題は、メタンガスを安定的に生産するために、季節や天候に関係なく安定的に燃料となる素材を用意することだった。そこで、自宅の動物の糞尿はもちろんのこと、近郊の農家で廃棄される野菜や家畜の糞尿、ブルターニュ地方特産のシードルの原料であるリンゴを栽培する農家から販売できないリンゴ、近くの公園整備から生まれる刈り取った草や樹木の枝、食品加工会社から出る有機廃棄物が定期的に配送される契約を結び、経営の安定を図っている。

 GAEC AJP Orvain社の1200立方メートルの発酵槽から生まれる電力量は150kWh、年間100万kWで300戸の電力をまかなえる。この規模にしたのは、生産する発電量によって異なる電力の買い取り価格制度を有利に使うためでもあった。

 フランスの再生可能エネルギーによる電力の買い取り価格は、発電量と契約時期によって異なる。2011年5月に政府はバイオガス買い取り価格を他の再生可能エネルギーよりも有利に設定し、バイオガス促進政策を明らかにした。GAEC AJP Orvain社はこの時期を待って契約をする戦略をとった。その時のバイオガスの買い取り価格は、150kW以下が13.37サンチーム/kWh、150~300kWが12.67サンチーム/kWh、300~500kWが12.18サンチーム/kWh、500~1000kWが11.68サンチーム/kWh、1000~2000kWが11.19サンチーム/kWhだった。従って大きな発電量を実現できそうもなければ、買い取り価格が最も高い150kWにとどめるのが賢い選択になる。

 GAEC AJP Orvain社が電力会社と結んだメタンガス化を中心とする発電の1kWhあたりの価格は、15年間の契約で19.97サンチーム(約20円)。基本価格13.37サンチームに発電の効率の良さ4サンチーム、糞尿処理2.6サンチームのボーナスが加算された価格だ。

■投資額は6年でほぼ回収される

 設備投資に費やした額は約94万4000ユーロ(約9400万円)。ほぼ6年で投資額はすべて回収されることになる。規模を拡大することも可能だったが、小規模ならではの買い取り価格を選んだ。安定的に供給を受けられるメタンガスを生産するための素材の量には限りがあるため、それを有効活用できる設備の規模にすべきだと判断したからだ。

 装置の管理には一日45分から1時間程度しかかからないことが、試験運転期間中にわかったが、主な作業はほかにあった。家畜の世話に加え、提携農家や企業、役所などへの連絡と運搬の手配、そのためのコンピュータのプログラミングなどが時間をとる重要な仕事だった。

 設備の建設を始める前に、バイオガスの先進国であるドイツとベルギーの小規模バイオマス生産農場で研修をしたことが役に立った、という。「フランスの農業の担い手でありながら、エネルギー産業の若い担い手として選ばれ講演する機会があったことに誇りに思う」とまだ30代のオルヴァン氏は締めくくった。

■生き物とともにあるバイオガス

 バイオガスほど、専門領域の枠を超えて連帯すべきエネルギー産業はほかにない。太陽光、太陽熱、地熱、海洋、風力発電などはどれも、それぞれの生産にかかわる専門領域は限られている。だがバイオガスの素材は多岐にわたる。有機物であれば何でもエネルギーに転換できるからだ。しかも、素材の提供元は、農業や畜産、工業、林業、造園業、家庭生活と多様で、素材の供給量は、それぞれ季節によっても天候によっても刻々と変化する。

 ことに農業、林業と畜産を主体とするバイオマスは、植物と動物の生育とともに変化する。いやその生育に成功して初めて産業化が可能になるエネルギーへの転換だ。そのため、風力や太陽光と異なり10年後、50年後を見据えた計画作りがこれほど重要になる分野はない。

 生き物の成長を約束し、生命の再生のサイクルを考慮してハンドリングするエネルギー産業は、大規模になることを避けなければならない産業とフランス政府は指導している。

 農業技術の進化はゆっくりだ。バイオガスの生産が技術の進化とともにあることは確かだが、他のエネルギー産業の技術的進化とは全くちがった次元にある。ダイナミックでありながら、バランスが大切な分野なのだ。

 しかも地方によってバイオガスの性質は異なる。ブルターニュ、ノルマンディー地方で使われる素材は、主として家畜の育成の結果生まれる糞尿とその肉の加工から生まれる油脂に代表される有機物だ。そのため、必然的に森林地帯の木質から生まれるガスとは性質が異なる。

 注意を払わなくてはならないのは、生産のプロセスが清潔で危険な物質が含まれない仕組みをつくることだ。しかも農業、畜産、あるいは林業という伝統のある産業と完全に共存しなければならない。

 国内で初となるコージェネレーションに限ったバイオガスの講演会は、ブルターニュ農業祭の会場に国内161社が参加し200人以上の参加者を得た。農業祭の展示会場に並ぶバイオ設備機器のほとんどは、農家や庭のある一般家庭向けの小さな木材、あるいはゴミと屎尿を利用するガス発生設備だったが、中小企業が開発する小規模の機器の多様さに驚かされる。

 他のヨーロッパ諸国に比べ、再生可能エネルギーの政策で遅れをとってきたフランス政府だが、バイオマスの熱利用だけに限れば支援は既に13年目を迎える。なかでも興味深いのは、パリ市内を走り始めたトラムT3の路面の下にバイオマス、バイオガス利用の地域暖房熱を供給するパイプを埋設する予定があることだ。

竹原あき子[工業デザイナー、和光大学名誉教授]

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